「アトピーに温泉がいいと聞いたけれど、どこへ行けばいいのかわからない」「入ってみたらかえってヒリヒリした」。肌の悩みを抱える人ほど、温泉選びで迷いやすいものです。
実は、温泉の効能は宿や観光協会が自由に名乗っているわけではありません。環境省は2014年7月、32年ぶりに温泉の適応症を見直し、アトピー性皮膚炎を「泉質別適応症」に挙げた泉質は酸性泉と硫黄泉の2種類だけと整理しました。逆に言えば、この2つは肌への作用が強い泉質でもあり、入り方を間違えると刺激になることがあります。
この記事でわかること:
- アトピー性皮膚炎が適応症とされる泉質と、その根拠
- 酸性泉と硫黄泉の違い(pH・刺激・においの比較表)
- 適応泉質で選ぶ温泉地6か所と、それぞれの宿選びのポイント
- 肌がデリケートな人のための入り方と、湯上がりの保湿のコツ
- 湯治の宿で失敗しないためのチェックポイントと持ち物
なお、温泉は治療の代わりではありません。現在通院中の方は、出発前に皮膚科の主治医に相談してから計画を立てるのが安心です。
アトピー性皮膚炎が「適応症」とされる泉質は酸性泉と硫黄泉
温泉の効能表示は、温泉法にもとづく環境省の通知で決まっています。泉質を問わず共通する「一般的適応症」(筋肉や関節の慢性的な痛み、冷え性、末梢循環障害など)と、特定の泉質にだけ認められる「泉質別適応症」の2段構えです。
日本温泉協会が公開している一覧を整理すると、肌に関係する泉質別適応症は次の表のようになります。
| 泉質 | 浴用の泉質別適応症(肌関連を中心に抜粋) | 浴用の禁忌症 |
|---|---|---|
| 酸性泉 | アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、耐糖能異常(糖尿病)、表皮化膿症 | 皮膚または粘膜の過敏な人、高齢者の皮膚乾燥症 |
| 硫黄泉 | アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、慢性湿疹、表皮化膿症 | 皮膚または粘膜の過敏な人、高齢者の皮膚乾燥症 |
| 炭酸水素塩泉 | 切り傷、末梢循環障害、冷え性、皮膚乾燥症 | - |
| 単純温泉 | 自律神経不安定症、不眠症、うつ状態 | - |
注目したいのは、適応症と禁忌症の両方に「皮膚」が出てくる点です。酸性泉と硫黄泉は殺菌作用や角質への作用が強い一方、肌が敏感な状態のときには刺激にもなり得ます。「適応症だから誰にでも合う」とは考えず、自分の肌の状態と相談しながら選ぶ姿勢が大切です。
日本温泉協会も、温泉療養は温泉療法医など専門知識を持つ医師の指導のもとで行うことが望ましいとしています。地元の温泉療法医を事前に調べておくと、現地で肌の調子が崩れたときにも慌てずに済むでしょう。
酸性泉と硫黄泉の違いをpHと刺激の強さで比べる

同じ「アトピー性皮膚炎が適応症」でも、2つの泉質の性格はかなり違うものです。
| 比較項目 | 酸性泉 | 硫黄泉 |
|---|---|---|
| 主な特徴 | 水素イオンを多く含み、pH3未満の強い酸性 | 総硫黄を一定量以上含み、ゆで卵のようなにおい |
| 肌への刺激 | 強め。小さな傷にしみやすい | 中程度。濃度によって差が大きい |
| 代表的な温泉地 | 草津・蔵王・玉川 | 万座・乳頭・月岡 |
| 湯上がりの注意 | 肌が乾燥しやすいので保湿を早めに | においが髪や衣類に残りやすい |
| 向いている入り方 | 短時間・ぬるめから試す | 短時間でも温まりやすく長湯は不要 |
pHは数字が小さいほど酸性が強くなります。たとえば秋田の玉川温泉はpH1.2前後、山形の蔵王温泉はpH1.3前後、草津温泉の湯畑源泉はpH2.1前後と、レモン果汁並みかそれ以上の酸性度です。掻き壊しがある日に酸性泉へ入ると、驚くほどしみることがあります。
一方の硫黄泉は、肌がつるっとした感触になると感じる人が多い泉質です。においが苦手でなければ、酸性泉より穏やかに感じるケースも少なくありません。どちらにするか迷ったら、まずは硫黄泉か、酸性度が比較的穏やかな源泉から試すという順番が無難でしょう。
適応泉質で選ぶアトピー向けの温泉地6選と宿選び
酸性泉または硫黄泉の源泉を持ち、宿泊施設の選択肢が多い温泉地を6か所に絞りました。湯治目的なら1泊より2〜3泊、できれば平日の連泊が肌の様子を見ながら過ごしやすくなります。
草津温泉(群馬県)|酸性泉の代表格
自然湧出量は毎分3万リットル超と、全国屈指の規模。湯畑源泉はpH2.1前後の酸性泉で、古くから「恋の病以外は治せない病はない」と言われてきた湯治場の歴史があります。宿は湯畑周辺の旅館から素泊まりの小さな宿まで幅広く、部屋にシャワーや洗面台がある宿を選ぶと、湯上がりにすぐ真水で流して保湿する動線が作りやすくなります。

蔵王温泉(山形県)|強酸性の硫黄泉
pH1.3前後の強い酸性に硫黄を含む「酸性・含硫黄泉」で、2つの適応泉質の性格をあわせ持つ温泉地です。開湯は約1,900年前と伝わり、温泉街には数百円で入れる共同浴場が点在しているのも魅力です。刺激が強いため、初日は共同浴場で5分ほど試し、肌の反応を見てから宿の湯で長めに入る、という段取りが向いています。
玉川温泉(秋田県)|湯治の聖地として知られる強酸性泉
毎分約9,000リットルが湧く「大噴」はpH1.2前後で、国内で最も酸性度が高い源泉として知られています。自炊棟を備えた湯治宿のスタイルが今も残り、長期滞在者が多いのが特徴です。源泉100%の浴槽のほか、50%に薄めた浴槽が用意されているので、肌の弱い人は必ず薄めた浴槽から試してください。冬期は道路事情で営業形態が変わるため、公式サイトで最新情報を確認してから予約しましょう。
万座温泉(群馬県)|硫黄の濃さで知られる高原の湯
標高約1,800mの高原にあり、総硫黄の含有量が多い源泉として温泉好きの間で有名です。乳白色の湯は見た目どおり濃く、短時間でも体の芯まで温まります。硫黄臭が強めなので、においが気になる人は大浴場の近くの部屋を避けるなど、客室の位置にも気を配ると快適です。

乳頭温泉郷(秋田県)|7つの宿で泉質を比べられる
ブナの森に7軒の一軒宿が点在し、宿ごとに硫黄泉や炭酸水素塩泉など泉質が異なります。「湯めぐり帖」で7湯を回れるので、どの泉質が自分の肌に合うかを1回の旅で比べられるのが大きな利点です。白濁した硫黄泉で知られる鶴の湯は予約が取りにくいため、早めの手配が欠かせません。
月岡温泉(新潟県)|エメラルドグリーンの硫黄泉
石油を掘削中に湧き出たという珍しい由来を持つ温泉地で、硫黄を多く含むエメラルドグリーンの湯が特徴です。新潟駅から車で約40分と都市部から近く、旅館の設備も整っています。酸性泉に比べて肌当たりがやわらかいと感じる人が多く、硫黄泉を初めて試す場所として選びやすい温泉地です。
どの温泉地を選ぶ場合も、予約前に源泉かけ流しか、加水・加温・循環の有無はどうかを確認しておきましょう。泉質が同じでも、湯の濃さは宿によって大きく変わります。
肌がデリケートな人のための入り方5ステップ
酸性泉や硫黄泉で肌トラブルを起こす原因の多くは「長湯」と「湯上がりの乾燥」です。入浴の手順そのものを変えるだけで、刺激はかなり抑えられるはずです。
- 到着日は1回3〜5分から:いきなり肩まで浸からず、半身浴か手足だけ浸けて反応を見ましょう。
- ぬるめの湯船を選ぶ:熱い湯はかゆみを誘発しやすいため、38〜40℃前後の浴槽が向いています。
- 体はこすらない:ナイロンタオルではなく、泡で押さえるように洗うのがコツです。
- 上がり湯で真水を浴びる:刺激の強い泉質では、湯上がりにシャワーで軽く流すと肌への負担が減ります。
- 5分以内に保湿する:脱衣所でタオルを押し当てて水分を取ったら、すぐに普段使っている保湿剤を塗ります。
1日の入浴回数は、最初は2回程度にとどめるのが無難です。湯治場では1日3〜4回入る人も珍しくありませんが、それは肌が慣れてからの話。肌が赤くなる、ヒリヒリが翌朝まで続くといった反応が出たら、その日は入浴を控えて様子を見ましょう。いわゆる「湯あたり」や「湯ただれ」は、入浴回数を急に増やしたときに起こりやすいと言われています。
湯治で失敗しないための予算と設備チェック

同じ温泉地でも、宿の設備によって肌のケアのしやすさには大きな差が出るものです。予約前に次の点を確認しておくと、現地で困ることが減ります。
- 客室にシャワーか洗面台があるか:湯上がりにすぐ真水で流して保湿できます
- 部屋の加湿器の有無:冬の温泉地は空気が乾燥しやすく、夜間のかゆみにつながります
- 寝具や浴衣の素材:綿素材か、持参のパジャマを使ってよいかを確認します
- 食事の内容:食物アレルギーがある場合は、予約時にアレルゲンを伝えて対応可否を聞きます
- 連泊割引・自炊プラン:湯治目的なら3泊以上の連泊プランや自炊棟が費用を抑える近道です
- 貸切風呂の有無:肌の状態を人目に気にせず入浴できるため、精神的な負担も軽くなります
過去の体験談でよく見かける失敗は、「大浴場しかない宿に泊まり、湯上がりに真水で流せず乾燥がひどくなった」「冬の高原で加湿器がなく夜中にかゆみで眠れなかった」の2つです。どちらも予約時のひと手間で防げます。
肌を守るための持ち物と準備

温泉地の売店では普段使いのスキンケア用品が手に入らないことも多いため、肌に合うものは自宅から持参しましょう。
普段使いの保湿剤
旅行先で新しい化粧品を試すのは避け、使い慣れた低刺激の保湿クリームや処方薬を持参します。小分け容器に入れて脱衣所にも持ち込めるようにしておくと、湯上がり5分以内の保湿を実行しやすくなるでしょう。(楽天市場で小分け容器を見る)
綿100%のタオルとパジャマ
宿のタオルは化学繊維混じりや硬めの素材のこともあります。肌当たりのやわらかい綿100%のタオルと、着慣れたパジャマを1組用意しておくと安心です。(楽天市場で綿100%タオルを見る)
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ポータブル加湿器
高原の温泉地や冬場の旅行では、USB給電のコンパクト加湿器があると夜間の乾燥対策になります。
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お薬手帳と保険証
万一肌の状態が悪化したときに、現地の皮膚科で普段の治療内容をすぐ伝えられます。
アトピーと泉質のよくある質問
Q1. 温泉に入ればアトピーは治りますか?
温泉は治療の代わりにはなりません。環境省の適応症は「温泉療養の効果が期待できる症状」を示したもので、症状の感じ方には個人差があります。主治医の治療を続けながら、補助的に取り入れるのが基本です。
Q2. 子どもでも酸性泉に入って大丈夫ですか?
子どもの肌は大人より薄く刺激を受けやすいため、強い酸性泉は短時間か、薄めた浴槽にとどめるのが無難です。家族旅行では、硫黄泉や単純温泉の浴槽もある宿を選ぶと調整しやすくなります。
Q3. 掻き壊しがある日は入浴してもいいですか?
傷がある状態で酸性泉に入ると強くしみることがあります。その日は入浴を控えるか、真水のシャワーにとどめる判断も必要です。
Q4. 温泉成分を流さないほうが効果的と聞きますが?
一般的には成分を残すために流さない入り方も知られていますが、酸性泉や硫黄泉は禁忌症に「皮膚の過敏な人」が含まれる泉質です。肌が敏感な方は、上がり湯で軽く流してから保湿するほうが安全でしょう。
Q5. 何泊すれば変化を感じられますか?
古くからの湯治は「一廻り7日」を単位に3週間ほど滞在するのが基本とされてきました。現代では2〜3泊の「プチ湯治」でも、肌の調子を見ながら続けやすいと考えられます。
Q6. 自宅で入浴剤を使えば同じ効果がありますか?
入浴剤は温泉法上の温泉とは別物です。硫黄成分を含む入浴剤もありますが、効能の考え方や表示のルールが異なります。使う場合も肌に合うか少量から試してください。
自分の肌に合う一湯を探しに出かけよう
アトピー性皮膚炎が適応症とされる泉質は酸性泉と硫黄泉の2つ。ただし、どちらも肌への作用が強く、禁忌症にも「皮膚の過敏な人」が含まれています。選ぶ際は、刺激の穏やかな源泉から試す・短時間から始める・湯上がり5分以内に保湿するの3点を押さえておきましょう。
次の休みに向けて、まずは主治医に温泉に行きたいと相談し、客室にシャワーがある宿を2〜3軒リストアップするところから始めてみてください。
